眼帯生活5

今日はなんだか眼帯をするのが面倒になってきて、ほとんどせずに過ごした。

 

取引先から電話がかかってきて、担当の人がシンガポールへ異動になることを知った。その人とは入社時期も近かったし、お互いよく喋る上司をたてつつ、横で「早く長い話終わんねーかな」って思いを巡らす環境が似ていたから、とても親近感を持っていたけど、もうしばらく会えないというのは残念だ。

 

目の周りのあざを人に見られるのが嫌で、下を向いて歩くことが増えた。アスファルトの凹凸や電車の地味な床の色を見ながら、シンガポールに行く担当者の顔が頭に浮かぶ。シンガポールのアスファルトはもっと平らだろうか。床はもう少し鮮やかだろうか。横断歩道の白いひび割れをひとつひとつ数えながら、東京の納品先へ向かった。

 

調子に乗って眼帯をしていなかったから、お客さんへ訪問するのに、よりによって眼帯を社内に忘れてきてしまった。「すいません、こんな顔で。」とお詫びすると、「誰もそんなこと気にしないから大丈夫ですよ。」と返ってきた。他人の悩みなんてそんなもんだろう。

 

すぐに治るでしょう、の「すぐ」が自分にとっては死活問題だ。不安や苛立ちとともに、あとどれくらい待てば完治というバスはやって来るのか。明日や明後日という時間ですら、1週間くらい待ってる気分だ。まして1週間後なんて、1ヶ月くらい先のことに感じる。

 

喫茶店の床に使われている大理石の模様は、迷路のように複雑だ。そのなかの比較的大きな石の間を選んで、視線を走らせていた。床のタイルの格子で迷路が分断されて、すぐ行き止まる。別の経路を選んでも、またすぐ行き止まる。つまんない遊びをしてたら目が疲れたのでやめた。

 

会社に戻ったら、机の上に大量のせんべいが置かれていた。パソコンたくさん買ったらキャンペーン中でおせんべいもらったの!って総務のおばちゃんが言ってたけど、どういうキャンペーンなんだろ。確かにプリンターのインクつけるよりもせんべいつけた方が、総務のおばちゃんを落とすにはよい作戦だと思うけど。